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2017/11/15

勝手にMI-CANナイト「大津 city 今恋心」トークショー全文を大公開!

・登壇者:太田 信吾監督
・司会 :神 康幸(MI-CAN事務局リーダー)

神●「大津 city 今恋心」でございました。太田監督、客席にいらっしゃると思うんですが、ぜひステージにお越しください。

-太田監督、拍手の中登壇。

神●今回は、俳優さんがいないので二人でトークショーを行いたいと思います。昨年、ちょうど一年前に僕らの元に285作品の3分間の予告編が届いたんですけど、実は僕が一番びっくりしたのが太田さんの「大津 city 今恋心」だったんですね。僕は今、59歳なんですけど、18歳の時に兵庫県の田舎から出てきまして渋谷のライブハウスの屋根裏に行ったんですけど、そこに出てたのがこの「誰がカバやねんロックンロールショー」と「東京おとぼけキャッツ」っていう二大バンドの対バンで。だから予告編を観た時に、これ一体、何歳の人が作ってるのかなと思って、実際にお目にかかったら……。

太田●32歳になりました。

神●ですよね。そのギャップに一番驚いた作品でした。それと太田監督にはいろいろお聞きしてたんですけど、早稲田大学哲学科ご出身ということで、映画制作とはギャップがあるような学科ではあるんですけど、映画制作にのめり込まれたきっかけみたいなものはありますか?

太田●きっかけ……。大学で映画制作サークルとかで頑張って活動してたとかはないんですけど、哲学の中でも僕がやってたのは「物語論」というジャンルで、物語とは何ぞや……みたいな。そこの研究で。具体的にいろいろな地域に根付いている伝統とかを違った角度から検証していくことで新たな史実が分かったりとか、そういう物語の可能性みたいなことをやってたんですよね。大学を卒業して、どうやってそれを活かしたらいいんだろうって考えた時に、映画を観るのが好きでカメラも買ったばかりだったんで、映画作りが、大学で学んだことを消化できるんじゃないかなって思ったのがきっかけですかね。

神●自分が作品を撮ってみたいというエネルギー体みたいなものがなければ、そこにのめり込めないんじゃないかと思うんですけど、最初に撮ってみたいと思われたのは、例えばどういう方だったんですか?

太田●僕の処女作は、3年前の2013年に劇場公開した「わたしたちに許された特別な時間の終わり」というちょっと長いタイトルの作品だったんですけど、それもドキュメンタリー映画でして。27歳の時に自ら命を絶ってしまった僕の友人のロックンローラーがいたんですけど、彼を映像日記のような感じで、日々のLIVE活動だったりとかをユーチューブにアップするために撮っていって……。 その彼の存在に惹かれて。彼は一回メジャーデビューして、世に出た時もあったんですけど、ちょっと精神的な病気を患ってしまって以降、なかなかこう注目を浴びず。(ただ)僕は個人的にいいなと思ったものを伝えていきたいなと思って、カメラを向けていたんですね。そこから、最終的に彼が途中で死んでしまって、僕は最初、映画にするつもりで撮ってなかったんですけど、(彼の)映画にしてほしいという遺書がみつかって、完成したのが2013年で、それが最初の映画でしたね。

神●それは、今からちょうど4年前くらいなんですけども、そのミュージシャンの方との出会いがあって、そのお亡くなりになった方のメッセージやパッションみたいなものを受けられて、それが(誰がカバやねんロックンロールショーの)ダンシング義隆さんへの流れになるんですか?

太田●そうですね。僕らが文字を打ったりツイッターで文章を書いたりする時に、必ず言いたいことがあって筆を握ったりするんですけど、その言いたいことが撮りたいことに置き換わって、(映像を)撮り始めるんだと思うんです。友達が自殺したというこの映画が、すごくありがたいことにいろんな国で上映してもらって、いろんなところに連れて行ってもらったりしたんですけど、ただこんな映画はあっちゃいけないな……と。やっぱり人の死を、というか自殺したということがどこかで(自分の中で)許せない部分がずっとあって。そんな時に、別の映画の撮影で大阪に行った時にたまたま義隆さんと出会って。別のライブシーンを撮っていた時に、次に出てきたのが義隆さんで。それが、この義隆さんの映画の誕生の時です。

神●全く偶然の出会いだったということですか?

太田●そうですね、別のラッパーを撮りに行ってたんですけど、片付けようとした時に義隆さんが出てきて。スタッフもみんな「何だ、あの人は!」って感じで惹き込まれて行って、そこから関係が始まって……。

神●それは、LIVEが終わって楽屋とかに(行ったんですか)?

太田●はい、行きました。

神●ちょっとインタビューさせてください!みたいな?

太田●いや、もう映画にするというよりは、「かっこよかったです!」って言ったら喜んでくれて。その時、彼は4畳半一間の大阪の西成区というところに住んでいて、ドヤ街で有名な町なんですけど。「ちょっと待ってろ!」って言ってママチャリに乗って、4畳半のドヤ(の家)まで行って、友達から借金して作ったCDを持ってきて皆にプレゼントしてくれて。聴いたらいいなって(思って)、そこから惹き込まれていって。ただやっぱりそこは、冷静に距離を保ちながら、なんかやっぱり映画にできるんじゃないかなと段々感じていったっていうことだと思います。

神●ということは、最初から映画にしようということではなくて、パッションとかエネルギー体としての義隆さんに惹かれて、とにかく撮りに撮り続けたということですよね?最初からゴールを決めずにというか。

太田●まだ過去形じゃなくて、やっぱ終わってない感じはあって。ドキュメンタリーって続いていくもので、終わらせるっていうのは作り手の都合でしかないと思ったんですよね。その対象の人との関係が物語になっていったりという部分で言えば、まだ続いてる感じはあるんですけど。でも、こういうチャンスを頂けたんで、出させていただきました。ありがとうございます。

神●先程、観ていただいた2作品というのはフィクションで、監督や脚本家が練りに練って脚本という設計図を作って、パートごとに撮っていってそれを完成させるっていうパターンなんですけど、ドキュメンタリーはそれが全くないじゃないですか。僕、興味があって今日聞きたかったんですけど、撮っているうちに、こういう流れになるんじゃないか、あるいはこういう風になればいいなみたいな、ある種の思い込みみたいなものがあって取材はされていきますよね?

太田●はい。

神●でも、予想外のことが次々に起こるじゃないですか?ドキュメンタリーですから。それを逆に面白いと思うのか、困ったことになったなと思うのか、それはその時々によって違うものですかね?

太田●ドキュメンタリーの面白さって、そこのスリリングさだと思うんで、僕は面白い部分だと思います。イメージを超えていけるというか。やっぱり相手に対しての先入観ってどうしても持ってしまうし、僕も撮影前に色々考えていきますけど、それが崩れる時って一番相手と対等だなっていうか、一緒にストーリーを作っているっていう感じがしますね。そこに何か面白さを感じなければ、フィクションで想像の中だけでストーリーを作ってやっていくっていうのも面白ろがれたんだと思うんですけどね、僕も。

神●ということは、取材する度に一回ストーリーを作られると思うんですね。こういう風な流れで完成するんじゃないか、でも何か予想外のことが起きると全部設計図をぶち壊して、また一から組み立てられるという作業になるということですよね?

太田●そうですね。段々見えてくるって言うか。最初は、義隆さんに惹かれて撮りに行って、でもなんか兄弟と揉めてるらしいぞとか。(笑)

神●揉めてましたよね、本当に揉めてましたね。(笑)

太田●そうですね。叔父さんが倒れて余命1年らしいぞ、とか。それをどうやって組み込んで撮っていくかとか。ただ向こうの思いもあるんで、そこのせめぎ合いというか、だからどこに着地するのかは撮ってると分からないですね。

神●そうですよね。

太田●編集の段階で、という感じですかね。

神●今回は、撮影は全部監督が撮られたものですけど、ポスプロの段階では僕らなりに「こうされたらいかがでしょうか?」というような、ご意見をさせていただきましたけども、やっぱりドキュメンタリー作品って素材も大事ですけど、どういう視点で届けるかっていう編集がとても大切なことなのかな、というのを今回ご一緒させていただいて感じたところではございました。

太田●ずっと一人で撮ったり友達とか身内と一緒にやってきてたんで、編集の段階で冷静に客観的な視点で、ディスカッションしながらまとめていけたことがすごいよかったですね、今回……。撮影の時はいろんな人がいたのに、(編集となると)自分だけの世界に変わってしまうので、やっぱりいろんな価値観を同時にキープしながら、頭の中でぶつけ合っていくというか、編集作業の重みみたいなものを今回改めて感じました。

神●ドキュメンタリー作品って不思議な生命力を持つので、今回、太田監督がこの作品を作られたことによって、そしてこれが公開されることによって、きっと誰カバのメンバーの人生だったり河合さんの人生も変わっていくと思うんですね。それも、さっき「まだ完成していない」と仰っていた一つの意味なのかなと思いました。

太田●そうですね。あの兄弟がもう一回ステージに上がるとか、そういう一個のアイディアというか予想はしてたんですけど、それはもう今はない状態で、今後どうなるか分からないんで見守っていきたいと思っています。

神●では、もう時間もなくなってきましたが……。多分この中にはドキュメンタリー制作を志されている方もいらっしゃると思いますし、今日作品をご覧になって、太田監督のお話しをお聞きになって、自分でもドキュメンタリー作品撮ってみようかな、なんて思った方もいらっしゃるかもしれないので、そういう方に向けてのメッセージをお願いできたらなと思います。

太田●物語の種類というか、国が語る実態がないけど大きい物語と、僕らみたいに一人一人の個人の人生史みたいな物語と、いろんなレイヤーがあって、いろんな物語に支えられて自分たちも消費して生きてるんだと思うんですけど、自分が語らないと語れないものとか、自分の世界から見えている中で、疑ってみてそこを追求していくと何か見えてきたり発見があったりっていうのが、絶対どんな人にでもあると思うんで、もっと面白いドキュメンタリーの作り手の人が増えてほしいです。僕はドキュメンタリーって面白い可能性のあるツールだと思いますし、これだけいろんなネットで簡単に発表できるっていう場があるから、だからこそちゃんと精査しないと難しいですけど、でも可能性はあると思うんでもっと面白い作品が増えればいいと思っています。どうもありがとうございました。

神●どうもありがとうございました。

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